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【10】-6 1型糖尿病と摂食障害

(1)1型糖尿病があると摂食障害を発症しやすい?

1型糖尿病も、摂食障害と関係の深い病気です。
1型糖尿病は小児期に発症することが多い病気です。
1型糖尿病を児童期~思春期に発症した女性は、摂食障害を発症するリスクが高い、というデータがあります。
治療として食事療法が必要になりますが、その食事療法に伴うストレスなども要因として挙げられているようです。
摂食障害は小児期に発症することもまれではありません。
1型糖尿病という大きなストレスを前に、過食、拒食、体重へのこだわりなど、摂食障害の典型的な症状が早々に外在化するのかもしれません。

また、1型糖尿病であれば、定期的に内科や小児科など医療機関を受診するものです。
ご家族も相談しやすい環境があるでしょうし、患者さんの様子から医療従事者が摂食障害の兆候を見つけやすいでしょう。
摂食障害は病識に乏しい反面、自分自身の食行動の異常について何かがおかしいと感じているものです。
過食や過食嘔吐については、症状を強く恥じて、絶対に周りにばれないようにと振舞うことも多いのです。
摂食障害単独では、見逃され、見過ごされていたものが、1型糖尿病という基礎疾患があることで、早期発見されているのかもしれません。
これは恐ろしい想像ですが、すべての摂食障害が明るみに出た時、1型糖尿病に摂食障害を発症する率と摂食障害の発症率にさほど差が無い可能性もあります。

(2)1型糖尿病特有の摂食障害の病理に根差した症状 insulin omission

摂食障害の病理に根差した、1型糖尿病に特有の症状があります。
1型糖尿病は膵臓がインスリンをほとんど分泌できないので、治療にはインスリンの皮下注射が必要になります。
1型糖尿病と摂食障害を合併した場合、その、本来投与すべきインスリンの量を意図的に減らしたり、投与しなかったりすることがあります。 (insulinrestriction、insulin omission)
そうすることで体重を減らそうとする試みで、その背景にはやせ衝動があるでしょう。

過食を無かったことにしたい、栄養分とせずに出してしまいたい気持ちがあれば、それは排出衝動です。
必要な量のインスリンを打たなければ、余剰の栄養分が蓄えられず、脂肪が蓄積することは無いかもしれません。
しかし、高血糖となり、場合によっては糖尿病性ケトアシドーシスに陥り、意識を失うこともあります。
insulin omissionをすればするほど、糖尿病としての病態は悪化していき、糖尿病合併症の発症が早まったり、進行しやすいでしょう。
この事実を知っていても、insulin omissionするのであれば、その方は間違いなく摂食障害です。
意思の力ではどうにもならないのが過食衝動、やせ衝動、排出衝動だからです。

死亡率が上がるリスクも

過食は過食衝動がもとになるもので、患者さん本人が糖尿病の病態が悪化すると知っていてすら、止められるものではありません。
そして糖尿病の病態の悪化や糖尿病合併症への恐れや不安は、次の過食、過食嘔吐をまねく大きなストレスです。
もともと過食や過食嘔吐は、高血糖をまねきやすく、インスリン抵抗性の悪化、膵臓β細胞のインスリン分泌疲弊をきたしやすいものです。
1型糖尿病を合併する摂食障害の方の死亡率は、摂食障害単独より、また、1型糖尿病単独より、高いという報告もあります。
これは、過食や過食嘔吐、insulin omission、insulin restrictionが、糖尿病の病態の悪化を招き、またそれが摂食障害の病状を悪化させる、という悪循環が結果にあらわれたものです。