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【15】-7 摂食障害・過食症の理想的な治療方法

(1)楽に、早く、症状が止められたら、止め続けられたら・・・

摂食障害のための認知行動療法や、ガイデッドセルフヘルプ法では、患者さん自らが積極的に症状に取り組む姿勢が重要で、人によっては、症状が増えかねないほどのストレスがかかることもあるでしょう。
対人関係療法、各種精神療法は、人間関係のストレスが減ったり、気持ちが楽になる場合があるようですが、過食衝動を無くすアプローチではないため、全般的に心が良くなっていても、症状が漫然と続いてしまう場合も少なくないでしょう。

まず、症状による苦痛を無くした上で根本的な治療に取り組む、というのが病気を治療するときの一般的なやり方です。
症状による苦痛がひどいほど、まずは症状による苦痛を無くす、軽減することが重要です。
症状にまみれた現状を地獄のように感じている摂食障害の患者さんはたくさんいます。
そういった方々にとっては、症状が楽に止め続けられるというのは、日々の精神的なストレスが格段に減るということでもあります。
ところが、病院、医療機関が、楽に、早く、過食・過食嘔吐・チューイングを止める、止め続けるという医療を提供できないのであれば、症状を出しながら、病院、医療機関が提供できる医療を受けるしかありません。

(2)過食衝動を無くすことができたら・・・

過食衝動そのものに焦点をあて、過食衝動を無くすことで、摂食障害の症状を、ガマンせず、ムリもせず、いち早く止める、止め続けることができます。
これはどこにでもできることではありません。
過食衝動を無くさずに、過食を止めようとすれば、がまんせざるを得ず、襲い来る過食衝動と戦うしかありません。
過食衝動を無くさなければ、楽に、早く過食・過食嘔吐・チューイングを止めたり、止め続けることはできません。
過食・過食嘔吐・チューイング症状に煩わされながら、心の問題に取り組むのは、アルコール依存症の人が断酒せずにアルコール依存症を治そうとしているようなものです。
症状に煩わされながら、摂食障害・過食症の治療を受けることは、患者さんにとって負担が大きく、よけいな回り道をしているようなものです。
摂食障害の治療に先んじて、無理せず、安定して過食・過食嘔吐・チューイングを止めることができれば、これほど患者さんにとって楽なことはありません。

(3)実現可能な治療法とは

日本で実現可能で、最も摂食障害の患者さんにとって負担の少ない治療は、楽に、早く、安定的に過食・過食嘔吐・チューイング・下剤や利尿剤の誤用などの摂食障害の症状を止めた上で、病院・医療機関での治療、本当の心の問題に取り組む、あるいは、身体合併症やうつ病などの併存症を治療する、というものです。
過食衝動そのものに焦点をあて、過食衝動を無くすことで、摂食障害の症状を、がまんせずにいち早く止める、止め続けることができます。
これは、過食衝動とは拒食や飢餓に伴う生理的過食衝動がほとんどすべてである、という捉え方で治療している医療機関では、まずできないことです。
過食衝動を無くして、症状をムリせず止めることのできる専門機関に頼り、過食・過食嘔吐・チューイングなどの摂食障害の症状を無理なく、安定的に、いち早く止めましょう。
その上で、心の苦しさがあれば、精神科・心療内科での治療や、カウンセリングを受けることも良いでしょう。
それまで続いていた過食・過食嘔吐・チューイング・下剤や利尿剤の乱用による悪影響は、確実に身体に蓄積されていますが、症状が止まってはじめて、その厳しい現実にも向き合うことができるでしょうし、内科や歯科を受診するなど、必要な行動がとれるようになるでしょう。

(4)過食・過食嘔吐・チューイングがあるからこそ、治療がいそがれる

過食・過食嘔吐・チューイングなどの症状に伴う心と身体の負担が大きいためにこそ、摂食障害・過食症には治療が必要です。
つまり、医師、治療者ならば、過食・過食嘔吐・チューイングを一刻も早く止めるべきなのだと知っています。
しかし、いざ治療が始まると、患者さんに対しては、「症状に一喜一憂しないようにする」、「症状に着目しない」、という対応になりがちです。
その理由は、過食・過食嘔吐・チューイングを無理やり止めると、再発したり、症状がさらに増えてしまうからです。
病院、医療機関ですら、無理やりやる以外には、過食・過食嘔吐・チューイングを止められない、ということです。

(5)病気の実害を意識した治療を

病院、医療機関が、無理せず、安定的に、過食・過食嘔吐・チューイングを止められるのであれば、のんびりと症状が止まるのを待つような治療方針はあり得ません。
摂食障害に伴う重大な身体の障害は、過食・過食嘔吐・チューイング・薬剤誤用など症状そのものが原因のことが多く、症状が長引けば長引くほど、より重く、治りにくくなるからです。
過食・過食嘔吐・チューイング・下剤や利尿剤の誤用は、時を重ねるごとに心身に深刻なダメージを刻み続け、摂食障害を積極的に治療すべき理由の大部分を占めます。
症状のダメージを無くしたいために治療するのに、治療に取り掛かっても、「すぐに症状をゼロにすることは難しいので、気長にやっていこう。」というのは、患者さんにとっては、ひどくはがゆいものでしょう。

「ゆっくりやろう」が病状を悪化させる

症状のためにこそ一刻も早い治療が必要なのに、治療をしてもすぐに症状をゼロにできるわけでもなく、必ずしも症状が止まるわけではない、というのは、摂食障害医療が抱える大きな矛盾です。
「実害の大きい過食・過食嘔吐・チューイングを安定的に止めた上で、ゆっくり心を楽にしていこう。」
これが理想的な治療です。
それが叶わなければ、「止められないのだから仕方がない。心全般を楽にしていって、そのうち過食が減るのを待とう。」となるでしょう。
こうなれば、症状に対する患者さんの不安やこだわりは、病状を悪化させかねず、「症状に注目しない」「気長に」などと言ってなんとか折り合いをつけるしかありません。
医師、治療者が、摂食障害患者さんの、楽に・早く・安定的に症状を止める、止め続ける、というニーズに応えられていないことを、今まで以上に問題視し、摂食障害医療の取り組むべき課題とすることは、摂食障害医療の飛躍的な進歩をもたらすかもしれません。