【20】-8 女性のからだと男性ホルモン
(1)女性のからだにもある男性ホルモン
意外かもしれませんが、男性ホルモンは女性のからだにも必要なホルモンです。
男性であれば男性ホルモンは精巣から分泌されますが、女性のからだの場合、卵巣と副腎で男性ホルモンが作られます。
副腎は、からだにとって非常に重要なホルモンをたくさんつくり出す場所で、多くのステロイドホルモンが副腎から分泌されています。男性ホルモンはステロイドホルモンの1種であり、副腎でもつくられているわけです。
(2)卵胞の発育から閉経後まで必要なホルモン
男性ホルモンは、初期の卵胞の発育にとって無くてはならないもので、女性のからだの性周期が正常にめぐるためにも男性ホルモンは必要不可欠なものです。他にも、男性ホルモンは女性の体の脇毛、恥毛の発現などに関わっています。
また、卵胞期にLHに刺激された卵巣の夾膜細胞(卵胞を取り囲む細胞)から 男性ホルモンが分泌されます。ほとんどの男性ホルモンは、近接する顆粒膜細胞に移行して、FSHの刺激のもと、強力な女性ホルモン作用を持つエストラジオールに変換されますが、性周期におけるLHサージの後には、エストラジオールに変換されなかった男性ホルモンの作用で性衝動が高まり、受精が促される、という風にも働きます。
男性ホルモンは閉経後の貴重なエストロゲンのもとにもなります。卵巣の機能が失われた後、副腎から分泌される男性ホルモンが脂肪組織でエストロンというエストロゲンに変化します。閉経後の女性のからだの女性ホルモンの供給源は、副腎から分泌される男性ホルモンと、からだの脂肪組織との共同作業で供給されているわけです。
(3)過剰な男性ホルモンは生理のトラブルのもと
このように、男性ホルモンは女性のからだにとって必要不可欠なものですが、過剰に分泌されてしまうと、女性のからだの性周期を邪魔する結果となります。
男性ホルモンが過剰に分泌されると、排卵障害の原因となったり、肌荒れ、にきびなどの肌トラブルや、毛深くなるなど男性化兆候も引き起こされるでしょう。
近年、インスリン抵抗性の上昇、高インスリン血症が、無月経や稀発月経などの排卵障害やそれに伴う不妊を引き起こしたり、さらには着床障害や初期流産を誘発する可能性まであることが分かってきました。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)という病気がありますが、原因不明の排卵障害で、不妊症の原疾患として有名ですが、インスリン抵抗性との関連が問題となる代表的な病気であり、インスリン抵抗性の上昇、高インスリン血症はPCOSの特徴のひとつと考えられています。
その他、PCOSの特徴的な症候に男性ホルモンの上昇がありますが、これは、インスリン抵抗性の上昇、高インスリン血症によっても引き起こされます、
(4)インスリン抵抗性の上昇と男性ホルモンのカンケイ
インスリン抵抗性の上昇・高インスリン血症は、卵巣の夾膜細胞を刺激して過剰な男性ホルモンの分泌を促します。
通常であれば、夾膜細胞で作られた男性ホルモンは顆粒膜細胞に移行して女性ホルモンに変わりますが、これは精緻なリズムで性周期が刻まれているとき、成熟途中の卵胞の存在と、下垂体から分泌されるFSHの助けがあればこそ、そのように働きます。
FSHの助けもなく、時期はずれの男性ホルモンの上昇は、エストラジオールの分泌を促すどころか、性周期の正常なリズムを断ち切ってしまいます。
過剰な男性ホルモンは、過剰なインスリンの作用と相まって、卵胞の発育を中途半端にし、排卵に必要なLH・FSH両方の分泌の高まりであるLHサージが起こせなくなります。
インスリン抵抗性の上昇、高インスリン血症によって男性ホルモンが過剰となると、性周期リズムは崩され、無月経や稀発月経、無排卵性周期症などの排卵障害が引き起こされます。
定期的な排卵が無くなるということは、排卵前のエストラジオール単独での分泌の高まりも無くなるため、女性らしい魅力が損なわれ、また、過剰な男性ホルモンが全身を巡り、肌荒れ、ニキビ、多毛など男性化兆候が生じることになるでしょう。