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【9】-16 Barker仮説にみる2型糖尿病のしくみ

(1)胎児期の低栄養と2型糖尿病のカンケイ

なぜ胎児期に低栄養に曝されることで、将来的に生活習慣病になりやすくなるのでしょう?
2型糖尿病発症の面から考えてみます。
胎児の糖の流れを追ってみましょう。
胎児は栄養のすべてを母親に依存してします。
胎児の栄養源は母親の食べるものと母親の身体自身です。
胎児の血糖は、母体の血糖をそのまま反映しています。

一方、血糖を下げるホルモンであるインスリンは、胎児の膵臓から分泌されています。
胎児が使うインスリンは、胎児自身の膵臓が分泌したものなのです。
血糖の上昇は、インスリンを分泌する上で、最も強い刺激となります。
胎児は母親から糖をもらって、自分でインスリンを分泌し、糖を細胞内に取り込み、成長していきます。
胎児期に適度にインスリンを分泌することが、胎児の膵臓の発育を促すと思われます。

(2)胎児は母体の栄養環境に適応する

母親の「やせ」や妊娠中の体重増加不良は母体血の低血糖をまねくでしょう。
少ない量の血糖を節約すべく、胎児は身体のインスリン抵抗性を上げます。
筋肉などで使う血糖を節約し、少しでも多くの糖を重要臓器である脳に配分するためです。
また、十分な血糖の上昇が無ければ、適度なインスリン分泌につながらず、胎児の膵臓の発育が阻害される可能性もあります。
このように、胎児は自身の身体をエネルギー倹約型に傾けることによって、子宮内の低栄養を生き延びます。
母体の低栄養の環境に適したエネルギー倹約型の体質は生後も持続し、変化することはありません。

(3)胎児の可逆性

胎児期は変化に寛容な時期ですが、その時期は限られており、時期を過ぎると変化が固定・定着します。
これを可塑性といいます。
子宮内の状況から、胎児は食料不足の環境に適した身体で生まれてきます。
母体の低栄養が食糧事情に関係が無い場合、生まれた環境が食料過剰である場合もあります。
その場合、子宮内で獲得したエネルギー倹約型の体質がアダとなります。
インスリン抵抗性のついた身体は、高血糖になりやすいでしょう。
膵臓の発育が不良であれば、インスリン分泌不全になりやすいかもしれません。
インスリン抵抗性の増加と、インスリン分泌不全は、2型糖尿病の病態そのものです。
これが、子宮内の低栄養から低出生体重児として生まれた子どもが、将来2型糖尿病を発症しやすいしくみです。

(4)高脂血症などとのカンケイ

母親の「やせ」や妊娠中の体重増加不良は、母体血の血糖を下げるでしょう。
母親に栄養不良による貧血も合併すれば母体血からの酸素も足りなくなるでしょう。
胎児期の低栄養・低酸素によって、栄養・酸素を重要臓器に優先するために循環調節が起こります。
循環調節は、脳や心臓など胎児にとって極めて重要な臓器を守り、その他の臓器を犠牲にする、胎児の苦肉の策です。
循環調節の結果、胎児の肝臓の発育が抑制されます。
肝臓は血液中の脂質を調整する臓器です。

この胎児期の肝臓の発育抑制が、新生児期の腹囲の減少や、将来の高脂血症を引き起こします。
循環調節で犠牲になる臓器には膵臓も含まれるでしょう。
循環調節による膵臓への悪影響が2型糖尿病発症にも関係しているかもしれません。
胎児期の循環調節によって腎臓に加わったダメージが、将来の高血圧発症と関わっています。