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【9】-25 妊娠前の体格と摂食障害のカンケイ

(1)さまざまな体格

摂食障害の方の体格はさまざまです。
過食行為が排出行為を上回れば、肥満(BMI 25以上)となっている場合もあるでしょう。
排出行為が過食行為を上回るか、摂食制限がメインである場合、やせ(BMI 18.5未満)となっているでしょう。
上記のどれでもなく、普通の体格(BMI 18.5以上25未満)の方もいます。
摂食障害を患っている場合、妊娠前の母親の体格は「やせ」であったり、肥満であったり、さまざまです。

(2)妊娠前の「やせ」

摂食障害の妊婦さんの妊娠前の体格が「やせ」であったとします。
妊娠前の母体に「やせ」がある場合、早産・胎児発育不全・常位胎盤早期剥離・低出生体重児分娩の可能性が高くなります。
妊婦さんに摂食障害があって、やせ衝動が強く働けば、妊娠中の体重増加はうまくいきません。
妊娠前から「やせ」で、妊娠中の体重増加まで不良では、上記の妊娠合併症のリスクがさらに増し、子どもへの悪影響も大きくなります。
その子どもは将来的に生活習慣病となりやすいでしょう。
妊娠中の体重を順調に増やせた場合、「やせ」による妊娠合併症の発症は少なくなり、子どもへの悪影響も減るでしょう。
しかし摂食障害がある場合、妊娠中の体重増加を良好に保つことはかなり難しいでしょう。

難しい体重管理

摂食障害の方には、「ちょうどよい」とか、「適量」などの物事のさじ加減が難しいことが多いようです。
「やせ」が良くないと思いつめて食べる努力をすると、これが過食衝動につながることもあるでしょう。
過食衝動に火がつけば、今度は妊娠中の体重増加が過剰となりかねません。
体重増加過剰の一般的な目安はありますが、どのラインが体重増加過剰になるのかは妊婦さん個人で違います。
体重増加に伴って妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群が生じた場合、その時点で体重増加が過剰であるともいえます。
「やせ」の状態にある女性は身体の余力が少ないことも予測され、その場合妊娠中の体重増加過剰の上限も低いことでしょう。
妊娠高血圧症候群を合併した場合、胎盤機能の低下から子宮内低栄養を引き起こすこととなります。
子宮内低栄養があれば、やはり子どもは将来生活習慣病になりやすいでしょう。
妊娠前から「やせ」のある摂食障害妊婦さんの妊娠中の体重管理は、かなり難しいものになるでしょう。
しかし、摂食障害という病気の特徴を考えると、食事や体重管理が思うようにいかないのは当たり前のことなのです。

(3)妊娠前の肥満

摂食障害の妊婦さんの妊娠前の体格が肥満であったとします。
妊娠前の母体に肥満がある場合、妊娠高血圧症候群・妊娠糖尿病・帝王切開分娩・巨大児分娩などの可能性が高くなります。
これらの合併症は妊娠中の体重増加過剰で悪化するものばかりです。
しかし肥満の原因が過食衝動にあれば、妊娠中の体重増加過剰も十分ありうることでしょう。
妊娠前から肥満のある摂食障害の方が、妊娠中の体重増加過剰を防ぐには、がまんせずに過食を止めることです。
がまんせずに過食を止められる治療機関を頼ってください。

望ましい体重増加とは

では妊娠前に肥満であった場合、妊娠中の体重増加はどれぐらいが望ましいのでしょうか。
妊娠前に母親が肥満体型でも、妊娠中の体重増加は生まれてくる子どもの乳児死亡率の低下に寄与します。
妊娠前に肥満だったからといって、自己判断で妊娠中に体重を全く増やさないのは非常に危険なことです。
妊娠前から肥満がある場合、妊娠中の体重増加の推奨量は個人で異なります。
妊娠に伴う負担を担うだけの余力を超えない分、つまり体重が増えても妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群を発症しないような範囲の分、体重を増やせるのがベストなのでしょう。

(4)妊娠前のふつうの体格の場合

摂食障害の妊婦さんの妊娠前の体格がふつうであることもあるでしょう。
体格がふつうでも、摂食障害があれば栄養の偏りがあるでしょう。
過食や過食嘔吐、チューイングによって、食道や腸など消化管に炎症が起きていたり、そこから出血したりしています。
体格がふつうでも、摂食障害の妊婦さんの身体は不健康なのです。
過食衝動の影響が強く出れば妊娠中の体重増加が過剰となるでしょう。
妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群を発症する危険があります。

やせ衝動の影響で、妊娠中に全く体重を増やせない場合もあるでしょう。
妊娠中の体重増加が過少である場合も妊娠高血圧症候群の罹患率が上がることが知られています。
妊娠中の体重増加の過少は常位胎盤早期剥離のリスクを上げるでしょう。
妊娠中の母親の体重増加不良から胎児が低栄養となれば、子どもは将来生活習慣病になりやすい素因を抱えることになるでしょう。
上述したように、妊娠前の母親の体格が肥満でも、妊娠中の体重増加はその後のお腹の子どもの生命予後を改善します。
妊娠前にちょうどよい体重であっても、妊娠中の体重増加が過少であれば、妊娠経過やお腹の子どもの将来に大きく影響します。

(5)目標と結果

では、妊娠前からふつうの体格で、妊娠中の体重増加がちょうどよければ、母親が摂食障害を患っていても問題ないのでしょうか?
妊娠中に摂食障害の症状である過食・過食嘔吐・チューイングを認める場合、それが一番の大問題です。
症状が無かったとしても、摂食障害ではストレス耐性の弱さや「うつ」の傾向などが妊娠分娩経過に悪影響を与える可能性があります。
妊娠前の体格も、妊娠中の体重増加量も、結果に過ぎません。
妊婦さんの第一の目標は、母親が安定した妊娠分娩経過を過ごし元気で健康な子どもを産むことです。
母児ともに健康であることが、ほとんどの妊婦さんの第一目標です。
妊娠前の体格が良好で、妊娠中の体重増加量も至適な場合に、この目標が達成しやすくなるということです。

母親の摂食障害が大きなハンディキャップとなる

妊娠前の体格がふつうでも、妊娠中の体重増加が至適でも、母親が摂食障害を患っていることで生じるリスクは母児ともにたくさんあります。
母親に摂食障害があるということは、妊娠のスタートからハンディキャップがあるのと同じです。
最初から「母児ともに健康」を満たしていません。
そして摂食障害では、安定した妊娠分娩経過を過ごし元気で健康な子どもを産むための過程になんらかの問題が生じやすいのです。
摂食障害がある上での妊娠は、妊娠分娩経過の安定や健康な次世代を産むことに関して、非常に不利に働きます。
私は摂食障害の女性に対して、摂食障害が治るまでは避妊することを勧めています。