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【9】-8 妊娠高血圧症候群の概要

(1)妊娠高血圧症候群とは

摂食障害の妊婦さんは、いくつかの妊娠合併症を起こしやすいことが知られています。
その中のひとつに妊娠高血圧症候群があります。
妊娠高血圧症候群は、産婦人科医であれば一般臨床の場で必ず遭遇します。
そして最も慎重な管理を要する産科疾患のひとつでしょう。
妊娠高血圧症候群では、妊娠をきっかけとして母親が高血圧や蛋白尿を呈します。
妊娠高血圧症候群の中でも、妊娠高血圧腎症に分類されるものが、かつての妊娠中毒症です。

(2)母体が死亡する主要原因となる

妊娠高血圧症候群の発症は、胎盤がうまくつくられなかったことを契機としています。
胎盤の圧環境がうまく整わず、たくさんの母体血が胎盤に流れ込めなくなっています。
圧環境の不具合や、胎盤自身の栄養が乏しくなった結果、胎盤の一部が壊れてしまうこともあります。
壊れた胎盤の一部が母体に炎症を起こすと、蛋白尿や高血圧などの症状が出ます。
また、胎児に少しでも多くの血液を送りこむためにも、母体は高血圧になるともいわれています。
妊娠高血圧症候群は、母親にけいれん発作(子癇)や脳出血などの命に関わる病態を引き起こします。
妊娠高血圧症候群は、母体死亡の主要な原因のひとつです。

(3)子宮内胎児発育不全

胎盤がうまくつくられていない(胎盤形成不全)ために、お腹の子どもは低酸素・低栄養になります。
妊娠高血圧症候群には子宮内胎児発育不全が起こります。
胎児発育不全のあった子どもは、新生児仮死(元気の無い状態で生まれる)や、呼吸障害を合併しやすいとされます。
うまく生き延びても、将来的に生活習慣病の素因(肥満・高血圧・高脂血症・2型糖尿病など)を抱えることになるでしょう。
この詳細は後で述べます。
妊娠高血圧症候群は母児双方に大きな影響を及ぼす妊娠合併症です。

(3)治療としての人工早産と未熟児

妊娠という生理現象が、異常現象になりかわってしまっているのが妊娠高血圧症候群です。
妊娠を終了すれば、高血圧や蛋白尿などの症状は速やかに消失します。
そのため、妊娠高血圧症候群の治療として臨月前でも子どもを産んでしまう(人工早産)ことがあります。
治療として人工早産を行った場合、子どもは未熟児(早期産児)となります。
未熟児には、未熟児ゆえの病気も多く集中的な新生児医療を必要とすることが多いでしょう。
胎児発育不全も伴った場合、病態が悪化しやすく、新生児医療が難航することが予測されます。
未熟に生まれれば生まれるほど、また胎児発育不全の程度が強ければ強いほど、死の危険も高くなります。

(4)合併症

また、妊娠高血圧症候群は、常位胎盤早期剥離を合併しやすいことでも知られています。
妊娠高血圧症候群の病状が重いほど、常位胎盤早期剥離のリスクは高くなります。
常位胎盤早期剥離は、母児ともに非常に危険な状態に陥ることのある、産科的救急疾患です。
常位胎盤早期剥離は子どもが生まれる前に、胎児にとって命綱の胎盤がはがれてしまう病気です。
妊娠高血圧症候群に見られる胎盤形成不全によって、胎盤がもろくなりはがれやすくなるのでしょう。
常位胎盤早期剥離が発生すると、胎児が未成熟でも妊娠を終了せざるを得ないケースが多いでしょう。
常位胎盤早期剥離については今後詳しく書きます。