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【20】-13 まとめ

(1)摂食障害・過食症・拒食症にみられるさまざまな生理のトラブル

摂食障害・過食症・拒食症では、さまざまな生理のトラブルに見舞われるでしょう。
大きく分けると、
やせやストレス、自律神経の異常、過食や過食嘔吐行為による身体の変化でもたらされる排卵障害(無月経、稀発月経、無排卵性周期症、多嚢胞性卵巣症候群)、
使用している薬物、抗精神病薬や抗うつ剤の影響による排卵障害(無月経)、
過食や急激な体重増加による生理以外での性器からの出血(不正性器出血)、
性周期に合わせて精神症状が表面化したり、過食が悪化する場合(これは本人としては月経困難症や月経前症候群として捉えていることが多い。)、
などです。
それぞれについて、簡単にまとめていきましょう。

(2)摂食障害によるからだの変化によるトラブル

やせている状態やストレスによって視床下部性の排卵障害(無月経・稀発月経)が起こります。
過食、過食嘔吐、過食と絶食の繰り返し、チューイングは、自分自身で思っているよりも、深く当事者の心を傷つけ、その罪悪感、自己嫌悪の感情だけでも次の過食や過食嘔吐を必要とするほどです。それほどのストレスが性周期に影響しないはずがありません。
またBMI 21.0以下の場合、視床下部性無月経・稀発月経の発生の閾値の上昇がありえるため、その他の排卵障害の要素が加わると無月経や稀発月経を発症しやすいでしょう。
過食・過食嘔吐・過食と絶食のくり返しに伴う身体の変化、つまりインスリン抵抗性の上昇、高インスリン血症によって無月経、稀発月経、無排卵性周期症、あるいは多嚢胞性卵巣症候群などの排卵障害が起こるでしょう。
ここに過食の結果である肥満や内臓脂肪型肥満が加わると、より男性ホルモンが強く作用してしまう結果となります。肥満による肝臓の働きの低下が、男性ホルモンの作用を強めてしまうためです。

不妊、不育症、流産率の増加にも影響する

インスリン抵抗性の上昇、高インスリン血症が生殖器に及ぼす影響として、排卵障害だけではなく、不妊症、不育症、流産率の増加があることが分かってきています。
視床下部性の無月経以外の要因で、摂食障害・過食症・拒食症が不妊の原因にもなりうる、ということです。
爆発的な過食や過食嘔吐により急激に体重が増えると、脂肪組織でのエストロンの産生が増え、性ホルモンの乱れが生じて排卵障害(無月経、稀発月経、無排卵性周期症)となったり、不正性器出血が起こるでしょう。

(3)精神科で処方される薬によるトラブル

精神科で処方される薬など、脳に影響する薬物が、視床下部や下垂体に影響して排卵障害を引き起こすこともあります。
抗精神病薬、抗うつ薬による副作用として高プロラクチン血症というものがありますが、このプロラクチンは下垂体から分泌されるホルモンで、これが高いと、視床下部に影響して至適なGnRHの分泌が得られなくなり、LHサージが起こりにくくなるため、無排卵、無月経となります。

(4)自律神経の乱れによるトラブル

また、摂食障害・過食症・拒食症では自律神経のバランスが崩れていることが多く、月経前症候群が起こる時期、生理前に、めまい、立ちくらみが出る、あるいは増える、ということもあるでしょう。
夜遅くまで過食して、翌朝の通勤のための電車やバスで、息が苦しくなったり、手が震えて冷や汗が止まらない、めまいで立っていられなくなった、気を失って倒れてしまった、ということはありませんか。
それが起こるのは、過食で睡眠時間が奪われるため、睡眠不足のせいもあるでしょうし、過食症に伴って自律神経のバランスが崩れているせいもあるでしょう。
また、生理前にそういう症状が出やすい、悪化している、ということは無いでしょうか。

(5)すべての不調は生理のせい?

摂食障害・過食症・拒食症の方々は、自分の病状を軽く見積もったり、大変な状態と気づけないことがよくあります。
すべての不調は生理のせい、と思い込んでいるかもしれませんが、過食や過食嘔吐、過食と絶食のくり返し、チューイングなど摂食障害の症状があるのであれば、それは生理のせいではなく、摂食障害・過食症・拒食症に根ざした生理のトラブルなのかもしれません。
過食や過食嘔吐、過食と絶食のくり返し、チューイングなどなんらかの摂食障害の症状があって、生理周期が整わない、生理と関係ない性器出血がある、生理前後に心身に不都合が出る、など生理のトラブルを抱えている場合、それはそもそも摂食障害に端を発している可能性が高いでしょう。
その生理のトラブルは、過食、過食嘔吐、過食と絶食の繰り返し、チューイングなど摂食障害の症状をがまんすることなく、いち早く止める、止め続けることで、かなり改善するでしょう。
それほどに、過食、過食嘔吐、過食と絶食の繰り返し、チューイングなどの摂食障害の症状は、当事者の心身を蝕んでいるのです。

【20】-12 無排卵、無月経がからだに及ぼす影響

(1)不妊の問題

摂食障害・過食症・拒食症であるときに、いかに無排卵、無月経を合併しやすいのか、分かってきたかと思います。
では、無排卵や無月経がからだにどのように害悪となるか、説明していきましょう。
まず第一に不妊の問題があります。
無月経の期間が長くなると妊娠する能力が失われます。
無月経や無排卵など正常に性周期が刻まれない状態では、卵巣、子宮への血流が乏しくなります。血流不足が長くなると、萎縮・変性といって、卵巣・子宮のつくりが変わっていってしまいます。
萎縮・変性が起こると、卵巣・子宮は本来の機能を二度と果たせなくなります。
つまり、永続的な不妊です。

(2)エストロゲンが過剰に分泌されている場合のリスク

無排卵、無月経の影響として、次に、女性ホルモン、エストロゲンが正常に働かないことによる問題が挙げられます。
エストロゲンの分泌レベルによって、いくつか病態が考えられますが、まずはエストロゲンがメリハリ無く分泌されつづけている状態での問題について述べましょう。
無排卵性周期症など、定期的な出血があるような状態では、プロゲステロンは不十分ながら、エストロゲンがある程度分泌されている場合があります。
この、エストロゲンがメリハリ無く分泌されつづけている状態は、摂食障害・過食症・拒食症によっても起こりえます。

不正出血、子宮の病気の発症

過食によって急激に体重が増えると、脂肪組織で分泌されるエストロンが上昇し、これによって性ホルモンのバランスが崩れて排卵できなくなったり、エストロンの効果で不正性器出血が起こったり、ということが考えられます。
排卵できず、プロゲステロンがほとんどない状況下でエストロゲンのみに暴露されつづけると、子宮内膜増殖症、子宮体癌などエストロゲンが発症にかかわる病気の危険性が増します。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や無排卵性周期症では、このためにこそプロゲステロンを補充する、という治療が必要になることがあります。
また、エストロゲンだけが中途半端に高くても、性周期に則ったエストラジオールの高まりは無いわけですから、エストロゲンの真価は発揮できていません。
性周期に則ったエストラジオールの高まりが無いということは、女性としての魅力が充分に発揮できていないということです。
エストラジオールは生体内で供給される女性ホルモンのなかで最も強い活性を持ち、その活性はエストロンの実に10倍とも言われています。
エストロンは性周期を邪魔することはできても、エストラジオールが本来持つ効果を発揮することはできません。

(3)エストロゲンの分泌が不足している場合のリスク

次は、エストロゲンが正常に働かないことによる問題のうち、エストロゲンの分泌レベルがかなり低い状態での問題点です。
やせていて、脂肪組織からのエストロンの供給もほとんど無いと思われるとき、この状態となりやすいでしょう。
エストロゲンの作用のひとつ、女性としての魅力を輝かせる、ということを考えると、エストロンすら不足している状態は、女性としての魅力はかなり損なわれた状態であると言わざるを得ません。

(4)高コレステロール血症、骨粗しょう症のリスク

しかしこの場合、より憂慮すべきなのは健康への悪影響です。
エストロゲンは脂質代謝や骨代謝に影響します。
無月経によって体内のエストロゲンがずっと低い状態が続くと、高コレステロール血症、骨粗しょう症のリスクとなります。
無月経と高コレステロール血症の関連性に議論の余地はありませんが、無月経が糖尿病など生活習慣病、メタボリックシンドロームをより早く発症させるかどうか、はっきりとしていません。
早発卵巣不全という状態で、糖尿病発症のリスクが上がる、という報告もあります。
しかし、ベースに過食や過食嘔吐、過食と絶食のくり返しなど摂食障害・過食症・拒食症の症状があれば、インスリン抵抗性の上昇、高インスリン血症などの体質が加わることにもなり、摂食障害に伴う排卵障害、無月経では高脂血症、糖尿病などの生活習慣病、メタボリックシンドロームを発症しやすい、ということがかなりはっきりしています。

(5)やせの状態で排卵を促すことは得策か

骨粗しょう症のリスクとして、無月経の他に低体重があり、摂食障害があり、やせていて無月経の場合、骨粗しょう症のリスクはかなり高いと言えるでしょう。
摂食障害・過食症・拒食症のために、やせすぎていて無月経となっている場合、長期の無月経による骨粗しょう症予防として、ピルやその他排卵を促す治療を行うケースもあるかもしれません。
しかし、過食や絶食・節食、過食嘔吐やチューイングがある状態での著しい低体重、やせすぎの状態は、命をかけた綱渡りのようなもので、些細なことで取り返しのつかない事態の悪化を招く危険もあります。危ないバランスを保っている時ほど、いったん悪い方に傾くと、信じられないぐらいの勢いでもって崩れ去るものなのです。

【20】-11 無排卵性周期症と無月経について

(1)無排卵性周期症とは

無排卵性周期症という状態がありますが、これは排卵していないのに、定期的に性器からの出血があり、まるで月経が定期的に来ているようにも見える状態です。
しかし、実際は、正常な性周期に見られる各種性ホルモンの分泌パターンとは、全く異なる状態になっていて、排卵を契機としたエストロゲン優位の状態(卵胞期)とプロゲステロン優位の状態(黄体期)の切り替えもなく、プロゲステロンが不十分なまま、持続的にエストロゲン優位な状態が続くことが多いようです。
長期的に無排卵性周期症を放っておくと、エストロゲンが子宮内膜に働き続けることで子宮内膜増殖症や子宮内膜癌の発症率が上がると言われています。
性周期が短い、あるいは出血量が少ない、出血期間が短いなどと感じている方は、そもそも排卵していない、無排卵性周期症のことがあるかもしれません。
また、過食、過食嘔吐、チューイング、過食と絶食のくり返しなど摂食障害・過食症・拒食症の症状がある方は、定期的に出血していて順調に生理が来ているように思えても、実は過食や過食嘔吐のせいで無排卵性周期症を発症している可能性があります。
婦人科受診が必要でしょう。

(2)低容量ピルの効能

低容量ピルには、さまざまな効用があります。
ピルの組成は簡単に言って、エストロゲンとプロゲステロンの合剤です。
低容量ピルは、避妊の目的でも用いられてきましたが、そのしくみは、エストロゲンが外から供給されることでからだの中の性ホルモンの連携が崩れ、排卵に必要なLHサージが起こらなくなるためです。
排卵しないために妊娠しません。
排卵しないものの、ピルで供給されるエストロゲンとプロゲステロンが子宮内膜に作用するため、ピルの休薬期間に月経のような消退出血が起こるわけです。

卵巣と子宮を最低限の状態に保つ

無月経を長期間放置すると、卵巣・子宮への充分な血流が無くなり、卵巣や子宮のつくり自体が変わってしまうと、以後2度と妊娠できなくなる危険性があります。無月経、稀発月経のときにピルが用いられるのは、ピルから供給されるエストロゲン、プロゲステロンが卵巣・子宮の血流を保ち、定期的に子宮内膜の変化を起こすことで、卵巣、子宮の状態を最低限良好な状態に保つことにあります。
場合によっては、卵巣、子宮への血流改善が、追い風となって次回の排卵を促すこともあるでしょう。
その他、ピルに含まれるプロゲステロンが月経過多症状や、月経痛の緩和に働くため、低容量ピルは月経困難症、子宮内膜症、子宮筋腫の症状改善に用いられることがあります。

(3)低用量ピルの注意点

低容量ピルを使うことで、1ヶ月に1回生理が来ているように見えても、からだのなかのホルモンパターンは、自然の生理のときとは全く違っています。
低容量ピルを使用し続ける限り、排卵しません。排卵しないということは、排卵前後のドラマティックな各種性ホルモンの分泌パターンが失われるということでもあります。
自然な生理では、LHサージが起こる前にエストロゲン単独での分泌の高まりがありますが、ピルを使うと、このエストロゲンサージも起こり得ません。
正常な性周期では、1ヶ月のサイクルのうち、卵胞期においてエストロゲン、なかでも女性ホルモン活性の高いエストラジオールが単独でメインに働き、排卵を境に黄体期となりプロゲステロン優位に働く、というパターンになっています。
これは、排卵してこそ得られる切り替えであり、自然に定期的に生理が来ている女性のからだにこそめぐる、約束されたパターンなのです。
低容量ピルを飲むことで、こういう自然の分泌パターンを得ることはできません。