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カテゴリ : 【15】摂食障害・過食症と摂食障害医療・治療のカンケイ

【15】-1 摂食障害治療に落とし穴?!

(1)摂食障害治療の矛盾

「通院してもすぐに症状が止まるものではないから、焦らずやっていこう」
「心の苦しさが無くなれば、いずれ過食することも無くなるだろう」
このような展望を持ちながら摂食障害治療に励んでいる人や、それを見守るご家族も多いと思います。

しかし、
「心が楽になればいずれ過食が止まるだろうから、時間を掛けて治していこう」
という姿勢は、実は、摂食障害の人が陥りやすい危険な落とし穴です。
「心が楽になればいずれ過食が止まる」
「過食が止まるのは一番最後。」

これらの治療方針は、大きな矛盾を孕んでいます。
それは、現在の摂食障害医療が抱える矛盾です。
この矛盾に気付かないまま治療に身を投じると、患者さん自身が最も痛手を被ったり、損をすることになるでしょう。
過食・過食嘔吐・チューイング・下剤や利尿剤の誤用は、それらの行為を重ねるごとに心と身体に深刻なダメージを与えます。
症状による心と身体のダメージのためにこそ、摂食障害には治療が必要です。
症状を止めるために一刻も早い治療が必要なのに、治療をしても症状をすぐゼロにできるわけでもなく、必ずしも症状が止まるわけではない、というのが摂食障害医療が抱える矛盾です。
「治療していればいずれ過食は止まる。焦らずやろう。」は、危険な落とし穴になるかもしれません。

(2)なぜ摂食障害を治療するのか

症状をなるべく早く止めたい、再発せずに止め続けたい、という摂食障害の患者さんの切実なニーズは、かなりまっとうなものです。
なぜならば、過食・過食嘔吐・チューイングなどの症状に伴う心と身体の負担が大きいからこそ、摂食障害・過食症には治療が必要だからです。
一気食いや過食嘔吐が原因となって、食道破裂、胃壊死、食道がんなどの重い身体合併症が引き起こされます。
症状が長引けば長引くほど、身体へのダメージは重なり、これらの重症度、緊急度の高い病気が起こりやすくなるでしょう。
症状に伴うダメージは身体だけではなく、心にも悪い影響を与え、過食後に自暴自棄となり事故を起こしたり、自殺に行きつくことまであります。
摂食障害は、精神疾患の中でも死亡率、自殺率が高い重篤な疾患です。
そして、摂食障害・過食症の患者さんの衝動的な行為、事故や自殺の引き金に、過食・過食嘔吐・チューイング・下剤や利尿剤の誤用が深く関わることは疑いようがありません。
これらの状況を考えれば、なぜ摂食障害を治療するのか、治療する上でもっとも切実に求められることが何なのか、おのずと分かるでしょう。
過食・過食嘔吐・チューイングなどの症状を止めるためにこそ、治療が必要なのです。

(3)楽に、早く、安定的に症状を止めたい!

注意が必要なのは、患者さんが自分で症状を止めようとすると、ガマンせざるを得ず、それは後の症状の爆発につながる、ということです。
将来の、倍返し、3倍返しの過食を避けるには、ガマンやムリをすることなく、過食・過食嘔吐・チューイングを止めることが必須なのです。
ガマンせず、ムリもせずに症状が止まる、ということは、いち早く止まる、安定的に症状が止まり続ける、ということでもあります。
楽に・早く・安定的に症状を止めることこそが、緊急度・重症度が高い身体合併症の発生を激減させるでしょう。
そうすれば、過食後の抑うつなども無くなり、心の負担も大幅に軽減します。

これは摂食障害の患者さんの自殺率の低下に大きく貢献するでしょう。
患者さんのニーズ、楽に早く症状を止めたい、止め続けたい、という期待は、かなりまっとうで、本来、摂食障害医療が真っ先に応えるべきものなのです。
ところが、摂食障害医療は、いまだ、この患者さん方のニーズに応えられていません。
摂食障害・過食症の病気としての難しさ、摂食障害医療の発展途上、さまざまな要因が重なった現状でしょう。