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【12】-1 摂食障害・過食症に万引きを合併する過程

はじめに

常習窃盗を犯す人々の中に、精神障害による病的症状として窃盗・万引きをくり返してしまう一群があります。

摂食障害・過食症の患者さんの中にも、万引きをくり返している方がいます。

摂食障害でくり返される窃盗・万引きは、摂食障害の独特の心性と結びついた病的症状のひとつでもあります。

窃盗・万引きは犯罪ですが、摂食障害でくり返される万引きは、病的精神状態の関与無くして語れません。

常習窃盗を病気として捉え、治療の対象としている専門の治療機関は、日本では稀です。

摂食障害単独であっても、一般的な医療機関からは避けられたり、満足な治療が受けられない現状があります。

摂食障害・過食症にくり返す万引き(常習窃盗)まで合併した場合、それに適切に対応できる医療機関は絶望的に少ないと言えるかもしれません。

摂食障害の方に見られる窃盗・万引きは、司法もからむ非常に複雑な問題で、解決への行程は困難を極めています。

(1)摂食障害・過食症に万引きを合併する過程

摂食障害・過食症の患者さんが万引きを繰り返すとき、そこに働く心理機制にはいくつかのパターンがあると思われます。

その多くにアダルトチルドレンとしての特性が関わっているでしょう。

大抵の場合、本人はその犯罪性を理解できる知的水準に達しています。

ひとりの摂食障害の方でも、以下に述べるパターンが混然一体となっていることもあるでしょう。

(2)過食衝動をベースとした万引き 盗み食いから始まる・・・

これは、過食衝動が圧倒的なために、商品の盗み食いに至るなど、規範、社会的ルールを乗り越えて食べてしまう、結果としての万引きです。

摂食障害・過食症は食べることをコントロールできない病気です。

過食衝動があれば、食べてはいけないと分かりきっている他人の食べ物や、お店の商品を食べてしまうことも当然あり得ることです。

摂食障害・過食症の方が、お店の商品を盗んでまで食べる、人目のないところで盗み食いをする場合、その多くが過食衝動による行動でしょう。

盗み食いは、最初は家族のものを食べてしまうものから、同僚のものを食べてしまう、仕事場のお菓子・商品を盗んで食べる、など、徐々に犯罪性を帯びたものへと変化していくものと思われます。

過食衝動は到底意志でコントロールできるものではありません。

過食のための盗みが過食衝動に伴うものであれば、過食衝動が無ければ、盗み食いをしなくて済むわけです。

過食症・摂食障害の方が盗み食いをせずに済む一番の方法は、過食衝動を無くすことです。

残念ながら、医療機関・病院での治療やカウンセリングは、過食衝動にアプローチしたものではなく、また、過食衝動を無くしてくれる薬もありません。

(3)不安が強く、不安等ストレス対処行動の拙劣さをベースとした万引き

摂食障害・過食症では不安障害などの精神疾患の併存も多く、不安を強く感じやすい特性があります。

また、ストレス対処行動を適切に取ることができない一方で、ストレス耐性がほとんどなく、非常にストレスに弱いという特徴もあります。

肩で風を切って歩き、強そうに見えたとしても、その本質は非常に繊細で弱弱しいのです。

摂食障害・過食症の方にとって、抑えられない過食や過食嘔吐と、減っていく食料、減っていくお金、という自分自身の状況は、非常にストレスフルです。

過食をコントロールできないことへの敗北感や自責、減っていく食料や財産に対する耐えがたい不安や恐怖、自分では止められない症状を前に、さまざまな負の感情が摂食障害の方を襲います。

万引きは、社会的には犯罪ですが、どうしようもない状況に対する摂食障害の方なりの対処行動のひとつとも言えます。

この場合一番の問題は、摂食障害・過食症の症状である、意志では到底抑えられない、過食衝動に根差した過食や過食嘔吐なのです。

過食や過食嘔吐、チューイングを、我慢することなく止め続けることができれば、摂食障害・過食症の方が万引きをする理由のいくつかが無くなります。

過食衝動を無くすことで、我慢することなく、過食、過食嘔吐、チューイングは自然に止まります。

摂食障害・過食症の方が万引きに至る過程、【12】-2 ②、③のふたつは、そのようにして対処することが可能です。

しかし、現在の日本の病院・医療機関において、過食や過食嘔吐をガマンせずにいち早く止める、という手段がありません。