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【9】-13 妊娠糖尿病の概要

(1)妊娠糖尿病とは

摂食障害の妊婦さんは、妊娠糖尿病を発症しやすいと予測されます。
妊娠糖尿病は、妊娠中の母体に高血糖など耐糖能の異常を認め、お産の後に正常化するものを指します。
妊娠によって、母体にさまざまな変化が起こります。
糖代謝の変化もそのひとつです。
母体の糖を胎児にまわすため、母親の身体のインスリン抵抗性が上がります。
インスリン抵抗性が上がることで、母体の血糖が上がります。
その結果、糖分豊富な母体の血液が胎児に送り込まれます。
女性が妊娠すると非妊時よりも多くのインスリン分泌が必要になります。
それに適応できない女性が妊娠糖尿病となるのです。

(2)インスリンの働き

インスリンは、胃の後ろ、背骨に近い位置にある膵臓という臓器から分泌されています。
インスリンが細胞に働くと、血液中の糖が細胞内に取り込まれ、血糖が下がります。
血糖を上げるホルモンは複数ありますが、血糖を下げるホルモンはインスリンしかありません。
インスリンは、細胞のエネルギー源である糖を外(血液中)から内(細胞内)に迎え入れる扉のカギのようなものです。
細胞は取り込んだ糖からエネルギーを産生します。
インスリンが働くことで、身体の細胞は栄養を取り込み、蓄え、成長します。
インスリン抵抗性があると、インスリンが細胞に作用しにくくなります。
インスリンが作用しにくくなると、血糖が下がりにくくなり、高血糖となります。
また、インスリンは膵臓のβ細胞という内分泌細胞から分泌されます。
β細胞がインスリンを分泌できなくなると、インスリンの枯渇により高血糖となります。

(3)日本人と糖尿病

インスリンの分泌能力には個人差、民族差があります。
日本人の2型糖尿病の半数は肥満を背景としないインスリン分泌不全型といわれます。
インスリンが十分に働いた結果、脂肪細胞が脂肪を蓄えに蓄えて、肥満になります。
肥満を背景としないインスリン分泌不全型は、肥満するまでインスリンを分泌する以前に、膵臓からのインスリン分泌が途絶えるということです。
日本人のインスリン分泌能は、欧米人と比較すると低いようです。
インスリン分泌能の低さは、膵β細胞の疲弊しやすさ、とも言い表されます。
日本人のインスリン分泌能が低いのであれば、そもそも日本人女性は妊娠糖尿病を発症しやすいのかもしれません。

(4)低出生体重児と妊娠糖尿病

低出生体重で生まれた女性は、妊娠時に妊娠糖尿病を発症しやすいといわれています。
妊娠糖尿病だけでなく、妊娠高血圧症候群・早産・胎児発育不全なども合併しやすいといわれています。
本来母体には、妊娠によって大きくなる負荷に対し、それに耐えるだけの十分な余力が備わっています。
インスリン分泌に関しても同じことがいえます。
低出生体重で生まれた女性には、膵β細胞の疲弊しやすさがあると思われます。
それと同様に身体のさまざまな臓器が疲弊しやすいのでしょう。
低出生体重で生まれた女性は、その身体の余力が十分に無いことが予測されます。
低出生体重で生まれた女性が妊娠した場合にいくつか問題が生じうるのは、そのためです。

(5)不都合と予後について

妊娠糖尿病の病的な意義は、いくつかあります。
妊娠糖尿病では、巨大児や不当重量児(妊娠週数相当よりも体重が重い児)が生まれるリスクがあります。
母体の高血糖が胎児の高インスリン血症を引き起こします。
その結果、胎児の身体発育が過剰に促進されて巨大児となるといわれています。
母体に比して胎児が大きすぎる場合、帝王切開が必要になるでしょう。
医療技術は日進月歩ですが、お腹を切らずにすめばそれに越したことはありません。
経膣分娩と比較すると、帝王切開にはそれ相応のリスクがあるということです。
また、巨大児や不当重量児として出生した場合、赤ちゃんが低血糖となりやすいでしょう。
胎内の高血糖の環境と外界がまったく異なり、赤ちゃんに高インスリン血症の名残があるからです。
低血糖は脳にダメージを与えます。

生後すぐの低血糖により、赤ちゃんのその後の発達に影響がでる場合もあるでしょう。
その他、妊娠糖尿病は将来の2型糖尿病発症のリスク因子であることが知られています。
妊娠糖尿病を発症した方は、将来的に2型糖尿病を発症しやすいのです。
妊娠糖尿病を発症した場合、産後に耐糖能が正常化しても、内科での年単位のフォローアップが必要です。