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チューブ吐きって、何だろう?

チューブによる嘔吐について

チューブ吐きは、摂食障害がより重症であることを現しています。
摂食障害の方の中に、嘔吐などの排出行為のときにチューブを使用している方々がいます。

彼女たちの言い分は、こうです。
「チューブを使うと、身体に負担が少ないのでは?」
「チューブを使うと、楽に吐けるし、何時間もトイレにこもらなくても良い。楽だよ?」
一理あるかもしれません。

私は以下のように考察します。

チューブを使用することで、胃の中のものを出し切る感覚が強く得られるようです。
実際に、嘔吐のときにチューブを使用している方々には、「著しいやせ」が多く見受けられます。
器具を使わずに嘔吐するよりも、チューブを使用するほうが排出の効率が上がるのでしょう。
こちらの理由の方がより摂食障害の本質に近いと思います。

チューブを使用するということは、それだけ「排出衝動」や「やせ衝動」が強いということです。
「排出衝動」「やせ衝動」は、「過食衝動」と同様、意志でどうにかなるものではありません。
「排出衝動」「やせ衝動」は、摂食障害・過食嘔吐・チューイング・下剤や利尿剤乱用の病態の中核とも言える部分です。
つまり、チューブを使って吐くことは、摂食障害がより重症であるということを現しています。

医療従事者の方々へ -摂食障害の診療にあたって-

摂食障害を診療することのある医療従事者の皆さんには、是非以下のことを分かっていただきたいと思います。
あなたが、摂食障害で嘔吐のためにチューブを使用する方を診たとします。
チューブによる嘔吐の弊害についてその方が知らないとしたら、情報提供する必要があると思います。

しかし、その方はチューブを使用することの危険性を知らないから、安易にチューブを用いているわけではないのです。
過食嘔吐行為の不自然さ、チューブを使用することの不自然さを最も感じているのは、実はその方ご自身だと、私は思います。

摂食障害でチューブによる嘔吐をしている方は、「排出衝動」や「やせ衝動」が強く、チューブを使わざるを得ないほど摂食障害の程度が重いのです。
さらに、チューブを使用することによる身体合併症、著しいやせに伴う身体の弊害も考慮すると、チューブを使用して嘔吐している摂食障害は非常に重症度が高いと言えるでしょう。

チューブを使用した過食嘔吐(チューブ吐き)の弊害

胃食道逆流症

チューブを使うことによって、チューブ内腔のみを吐物が通るならば、嘔吐している最中に胃酸で食道が焼かれることはありません。

胃と食道の間には、胃食道接合部という部分があります。

胃食道接合部は、食道そのものの筋肉と横隔膜からなります。
食べ物が食道から胃に通るときにはゆるみ、食べ物が通らない状態では引き締まった状態になっています。

胃酸や胃酸をまとった食物が胃から食道に逆流しないようにするためです。

これを、人の身体にもともと備わっている胃食道逆流防止機構と呼びます。

過食嘔吐の症状の度に口から胃にチューブを出し入れすることによって、胃食道接合部の筋肉や構造そのものが徐々にゆるんできます。

胃食道接合部がゆるんでくると、胃液が食道に逆流するようになり、逆流性食道炎となります。

チューブを使用しても、胃液による食道の損傷を防ぐことはできません。

食道がんのリスク

チューブ吐きでは、嘔吐の最中に胃酸で食道が損傷されなくても、チューブによって機械的に食道や胃が傷つきます。

過食嘔吐症状のたびにチューブを使用すると、その度に食道が傷つくことになります。

慢性的な機械的刺激や炎症は食道がん発生のリスクとなります。

チューブを使用せずに嘔吐して胃酸で食道が焼かれることも、 チューブを使用してその都度チューブによって食道が擦られたり傷ついたりすることも、食道がん発生のリスクとなるのです。

胃穿孔、食道穿孔、窒息の危険

チューブを無理やりに押し込むことで、食道や胃の壁を突き破ることもありえます。

食道穿孔は縦隔炎という内科的に治療が厄介な感染症を合併することもあります。

胃穿孔は腹膜炎を合併します。

食道穿孔、胃穿孔は、いずれも緊急に医学的処置が必要となる非常に重篤な病態です。

摂食障害の嘔吐行為のためにチューブを使用している方々の多くが、非医療目的のチューブを使用しているようです。

医療器具としてのチューブは、内蔵を傷つけないように比較的安全に設計されています。

しかし医療器具としてのチューブですら、食道穿孔や胃穿孔のリスクがゼロであるとは言えません。

もともと人体に使用することを想定していないチューブに至っては、そのリスクは跳ね上がるでしょう。

嘔吐行為のために、医療用ではないチューブを自らの食道や胃に入れることは非常に危険なことなのです。

窒息の危険

また、過食した物の質や量によっては、チューブの内腔ではなく、チューブの脇を通って食物が逆流することもあるでしょう。

その際、チューブの脇を通った食物が気道に誤って流れ込むと、窒息する危険があります。