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【15】-6 治療離れを起こさないために

(1)患者と治療者のズレを埋める

摂食障害・過食症の患者さんの治療離れは、ひとつの家庭の崩壊、悲惨な事態をまねく序章となりえます。
摂食障害の苦しみ全てを、患者さん自身、患者さんを抱えるご家族が引き受けざるを得ず、家族の手に余れば、社会がその受け皿となります。
摂食障害・過食症の患者さんの医療不信、治療離れが増えることは、社会の根幹を揺るがす事態となりうる、非常に深刻なことです。
医療に対する過度な期待、医療への幻想は、最終的には医療不信、治療離れを増やすことになるでしょう。

医療側が不足を認める

医療への過度な期待、幻想を、医療の側が助長する事態は避けたいものです。
そのためには、今の医療ができることと、患者さんの切実なニーズ(楽に早く症状を止めたい)との間に、大きなズレがあることを認め、患者さん自身に知ってもらわなければなりません。
摂食障害の治療現場において、医療が提供できるものと、患者さんが医療に期待することのズレは、非常に大きいものです。
早く症状を止めるためにこそ治療が必要なのに、治療をしても必ずしも早々に症状を止められるわけではない、という摂食障害医療が抱える矛盾。
患者さんが楽に早く症状を止めたい、止め続けたいという切実なニーズは、実は、医学的にも理にかなったものであること。
患者さんのニーズに医療が追いついていないこと。
これらをはっきりさせておかないから、決定的な医療不信が生じ、患者さんが二度と治療の場に戻ってこない、ということが起こるのです。

(2)医療にしか提供できないもの

患者さんのニーズ、楽に早く症状を止めたい、止め続けたい、という期待は、当然あるべきものです。
しかし、楽に早く症状を止められないのであれば、それに準じた方法を取るしかありません。
過食・過食嘔吐・チューイングに対して、現状の医療ができる対応は、3食食べる、絶食しないなど、生理的過食衝動を抑える方法がひとつ、それに加え、症状に一喜一憂するストレスを減らすため症状にはなるべく注目しない、ということです。
「焦らず気長に心を治療する。」「過食がおさまるのは最後。」という考え方は、摂食障害医療が真っ先に応えるべきことに、応えられていない現状を、患者さんの目から隠してしまう面もあります。
摂食障害の患者さん、患者さんを抱えるご家族は、賢い消費者となって、医療が提供できるものの限界を知り、上手に利用しなければなりません。

精神科併存症や身体合併症の解決

患者さんの最も切実なニーズに応えることはできないかもしれませんが、医療にしかできないことも多くあります。
うつ病などの精神科併存症の対応、睡眠の問題などは、精神科が得意とするところでしょう。
うつや睡眠の問題の改善は過食・過食嘔吐・チューイング症状の軽減に役立つ場合もあります。
過食・過食嘔吐・チューイング・下剤や利尿剤の誤用などの症状に伴う身体合併症に至っては、医療の力無くして解決はあり得ません。