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カテゴリ : 【11】摂食障害と多重嗜癖(クロス・アディクション)のカンケイ

【11】-1 摂食障害と依存症

(1)摂食障害は依存症でもある

摂食障害・過食症は、食べることをコントロールできない病気です。

また、時とともに食べ物の量や過食・過食嘔吐に要する時間が増えていきます。

これは、依存症における依存行為・物質に「耐性がつく」という現象です。

そのうち、生活全般が食べ物中心に回るようになり、食べ物や食事、過食、過食嘔吐、チューイングに振り回されていくことになります。

これらの摂食障害・過食症の特徴は、国際的診断基準であるICD-10に示されている依存症の特徴そのものです。

世界保健機構が手掛けたICD-10と米国精神医学会が刊行するDSM-5は、精神疾患の診断基準の双璧です。

(2)アダルトチルドレンとは

アルコール依存症者の親がいる家族では、その子どももアルコール依存症を発症しやすいことが広く知られています。

依存症の性質は親から子へ受け継がれうるものですが、すべてが目に見える形で受け継がれるわけではありません。

アダルトチルドレンとは、もともとアルコール依存症の治療現場から発生した概念です。

アルコール依存症者の夫から離れられない妻に注目すると、その妻の多くがアルコール依存症者の娘であったという事実が最初にありました。

狭義には、アダルトチルドレンはアルコール依存症者のいる家庭で子ども時代を過ごした大人のことです。

広義には機能不全家族の中で子ども時代を過ごした大人です。

アルコール依存症のように養育者に依存症の問題があったり、あるいは病気などで養育者が健常な親として機能できない家族が機能不全家族です。

アダルトチルドレンとは、「生きづらさ」を自覚した大人がその理由をたどり、その後の人生をより豊かに生きるためのきっかけともなるもので、診断のための医学用語ではありません。

依存・嗜癖のベースとなるアダルトチルドレン

ほとんどのアダルトチルドレンの将来には、常に依存・嗜癖の問題が付きまといます。

嗜癖とは広義の依存症のことで、「わかっちゃいるけどやめられない」性質のものです。

過食、過食嘔吐、チューイング、下剤誤用、利尿剤の乱用も嗜癖の一種です。

アダルトチルドレンはアルコール依存症や摂食障害、多重嗜癖のベースとなりえます。

アダルトチルドレンとしての特性から、アルコールや薬物、ギャンブル、過食嘔吐などの嗜癖的行動をくり返し、深みにはまった時、病院・医療機関での治療が必要となります。

(3)摂食障害とアダルトチルドレンとしての特性

摂食障害・過食症の方の多くが、アダルトチルドレンに共通した性質を持ちます。

摂食障害・過食症は食べることをコントロールできない病気で、食べ物や過食や過食嘔吐行為、チューイングに嗜癖する病気です。

アダルトチルドレンに嗜癖の問題が付きまとうことを考えれば、摂食障害の方の多くにアダルトチルドレンの特性があっても、なんの不思議もありません。

詳しくは成書にゆずりますが、アダルトチルドレンにはいくつかの特徴的な性質があります。

その性質がアダルトチルドレンを、過食や過食嘔吐行為、アルコール依存、薬物依存、ギャンブル依存など数々の嗜癖的行動へと駆り立てます。

摂食障害・過食症に万引きを合併しやすいことは良く知られていますが、このことにもアダルトチルドレンとしての特性が深く関わっています。

(4)摂食障害と多重嗜癖(cross addiction クロス・アディクション)

摂食障害・過食症は、食べ物や食べることに関する依存症でもあります。

依存症には、依存対象が二つ以上存在する多重嗜癖(cross addiction)という問題があります。

依存症の治療上、多重嗜癖という概念は欠くべからざるものです。

嗜癖とは、広義の依存症を指します。

アルコールや薬物などの物質だけではなく、行為、人間関係に及ぶ、「コントロール出来ない悪い習慣」が嗜癖です。

物質の嗜癖には、アルコールや薬物の摂取によるものがあり、

行為の嗜癖には、ギャンブル、セックス、暴力、自傷行為、万引き、買い物、仕事、インターネット、ゲームなどがあり、

人間関係の嗜癖には、恋愛、夫婦間暴力、家庭内暴力(思春期青年の親虐待)、虐待、いじめ、パワーハラスメントなどがあります。

人間関係の嗜癖の背景には、共依存があります。

例えば、男性から暴力を振るわれても、その男性から離れられない女性には、共依存になりやすい性質があります。
(もちろん、それで暴力を振るう側の加害者としての免責が発生するとは毛頭思いません。)

摂食障害・過食症の場合、食べ物そのものへの依存、食べ方や過食嘔吐行為、チューイングへの依存があります。

下剤や利尿剤などの薬物の誤用もあり、これも物質と行為双方にわたる嗜癖です。

多重嗜癖を念頭に置いた治療の重要性

摂食障害・過食症の場合も、依存症という特性上、多重嗜癖の問題を無視できません。

治療上、ひとつの依存対象だけに目を向けていると、その依存が減っても、別の依存が増えている、ということが往々にして起こります。

過食、過食嘔吐やチューイング行為がおさまっても、一方で飲酒量が増え、アルコール依存症に陥ってしまっては、元も子もありません。

摂食障害にアルコール依存症を合併する時、その死亡率は倍以上に跳ね上がります。

摂食障害・過食症を発症しているということは、上記の物質や行為、人間関係の嗜癖の共存も十分あり得るということです。

摂食障害の患者さんによく見られるくり返す万引き行為も、多重嗜癖の要素を孕むものです。