摂食障害のホームページ



【12】-3 摂食障害に万引きをくり返す場合の対処方法

(1)治療体制の不確立

摂食障害・過食症の方が常習窃盗を合併した場合、患者さんはどうしたらよいのでしょう。
常習窃盗単一でも、その精神病理は非常に複雑かつ根深い性質のもので、社会的にも対応が確立されておらず、治療は難しいでしょう。
摂食障害医療に携わったことのある医療従事者であれば、摂食障害・過食症にくり返す万引き(常習窃盗)を合併しやすいことを知っています。

あなたが過食症で、万引きをくり返していて、主治医に万引きについて打ち明けたとします。
万引きに関して、主治医から糾弾されたとしたら、残念ながらその医師に摂食障害の専門知識は無いか、非常に乏しいと言わざるを得ません。

確かに、この問題は一朝一夕でどうこうできるものではなく、医師であったとしても思わず見ないふりをしたくなるほどのものかもしれません。
しかし、この問題を否認し、放置すればするだけ、一個人の中で、ひいては社会中に、この問題の根がさらに広く深くはびこっていくだけです。
摂食障害・過食症に見られるくり返す万引きは、医療面からは勿論、司法の面からも、社会的に解決に向けて取り組み続けるべき問題です。
解決にあせるのではなく、問題意識を持ち続けることです。

過食衝動を無くすことの緊急性と重要性

ひとつ、はっきりしていることがあります。

過食や過食嘔吐、チューイング症状を抑え込まずに、いち早く止めることができれば、摂食障害に見られる万引きの要因のふたつが無くなります。
抑え込まずに過食や過食嘔吐を止めるには、過食衝動を無くすことです。
過食衝動が無ければ、盗み食いをする必要が無くなり、ガマンせずに症状が止まり続ければ、少なくともそれ以後の過食費の心配は無くなります。
これによって、万引きを誘発しにくくなり、多重嗜癖としての万引き行為も改善する可能性があります。

摂食障害・過食症のみの場合、過食症状を抑えるのではなく、症状に一喜一憂せずに、あせらず治療に取り組むのも一つのやり方です。
対人関係療法がその最たるものですが、各種精神療法、カウンセリングの多くがそういったやり方を取っているものと思われます。
しかし、摂食障害・過食症に、くり返す万引きを合併している場合、悠長に構えている暇はありません。
止められない過食や過食嘔吐、チューイングが万引きを誘発し、回を重ねるごとに万引きは嗜癖化し、状況はどんどん悪化していくでしょう。

摂食障害・過食症に、くり返す万引きがある場合、一刻も早く、我慢することなく過食や過食嘔吐症状を止め続けることが緊急の課題なのです。
医学雑誌や専門書には、摂食障害・過食症の治療が、くり返す万引き行為に対して奏功する可能性について書かれています。
ここで重要なのは、患者さんが我慢することなく、かつ一刻も早く、過食や過食嘔吐、チューイング症状を止め続けることです。
過食衝動を無くせば、我慢せずとも、過食や過食嘔吐、チューイング症状は止まり続けます。

(2)医療従事者の対応

摂食障害を患っている方が、医療従事者に対する時、「いい子」としてふるまいやすいことを、医療従事者は常に念頭に置かなければいけません。
患者さんにとって、医師や看護師に万引きなどの行為について告白すること、現状を正確に申告することは、非常に難しく勇気のいることです。
摂食障害・過食症で治療のために通院している方自体、摂食障害全体からは少数派となるでしょう。
その中でも、主治医にくり返す万引きについて相談できている患者さんは、さらに少ないのではないかと推察します。

万引きは犯罪であり、それを助長するつもりは私には一切ありません。
万引きという犯罪行為に対し、成人した大人として責任を取ることは必須のことです。

摂食障害・過食症は病気だから、責任能力が無いと言っているわけでもありません。
摂食障害・過食症の方が万引きに至る心理的プロセスには複数の要因が存在し、司法面での責任能力の有無はケースバイケースとなるでしょう。

個人のストーリーへの理解を

摂食障害・過食症の方が万引きに至るには、その多くに、ある程度筋道のあるストーリーがあります。
摂食障害・過食症だから、ただ「罪悪感なく」、万引きをするのではありません。
摂食障害・過食症の方は、ただ「けち」だから、万引きするのでもありません。
そこに至るには、その方たちなりの、苦しさ、耐えがたいほどのつらい感情があり、道筋があります。

摂食障害・過食症に携わる医療従事者は、患者さんが万引きをくり返している際、キーワードの羅列ではなく、その方個人のストーリーとして理解する努力をして欲しいと思います。
ありとあらゆる精神疾患には、治療者からの共感・支持的態度が必要不可欠です。
摂食障害・過食症も例外ではありません。