【2】-2摂食障害による低体重への対応
(1)対症療法
対症療法という医療用語があります。
根本的な治療ではありません。
現在ある苦痛を取り除いたり、将来起こりうる不都合を可能であれば回避する、
といった目的の治療行為です。
今現在、摂食障害で苦しむ患者さんに、
今の医療が提供できるものを提供する、ということです。
(2)リハビリテーション
著しい低体重ではクッションとなるべき体脂肪がほとんどありません。
姿勢の保持が難しかったり、日常の動作でも痛みを伴いやすかったりします。
洋式便座から立ち上がるときにふらついたり、お風呂につかる時に硬い浴槽に座ると痛かったりします。
著しい低体重に伴い、患者さんの日常生活はすこしずつむしばまれています。
これらの症状は、患者さんが体重を増やせないから、仕方がないことなのでしょうか。
著しい低体重を伴う摂食障害の患者さんは、
低体重によって起こる日常での苦しさや痛みをすべて我慢しなければいけないのでしょうか。
摂食障害の患者さんは、
自己処罰的な傾向が強かったり、自分の欲求を相手に伝えることが上手でない方が多いようです。
これらの日常生活をむしばむ症状について、
医療従事者にわざわざ伝えなかったり、うまく伝えられなかったりしているのかもしれません。
現在の医学における整形外科からリハビリテーションの分野の知識や経験をもってすれば、
著しい低体重に伴って生じる日常生活の苦痛をやわらげることができるのではないでしょうか。
摂食障害に関する専門的な書籍のいくつかには、リハビリテーションという項目はあっても、
摂食障害の就労支援や地域社会でのリハビリテーションについて書かれていることが多いようです。
整形外科に至っては、摂食障害の関連での記載をほとんど見かけません。
整形外科やリハビリテーションの分野の医療従事者の知識と経験が、
著しい低体重によって起こる日常生活上の不都合の改善に大きく役立つのではないかと思います。
「今」を改善することは、
「今」を生きられない多くの摂食障害の患者さんにとって、病気からの回復の糸口ともなりうるのではないでしょうか。
(3)ビタミンやミネラルの補充
人間にとって色んな種類の食べ物を適量食べることは、何にも勝る栄養管理法だと思います。
しかし、摂食障害によってそれが叶わない時に、
患者さんに合わせたビタミンやミネラルの処方は、非常に重要で有益と思われます。
著しい低体重を伴う場合は、特にそうです。
BMI16未満の慢性期の神経性食欲不振症の患者さんがいたとします。
BMI16未満でいる期間が長ければ長いほど、骨粗しょう症のリスクが大きくなります。
低体重による骨密度の低下の一番の治療法は体重増加です。
それが叶わない時に、
ビタミンDやビタミンK、女性ホルモン治療について検討し、
利益と不利益を踏まえたうえでどうしていくか、患者さん個人の状態も含めて考えるということが、
医師を含めた医療従事者の仕事の一つだと思います。
ビタミンDやビタミンKは脂溶性ビタミンであり、過剰な服用は中毒症状をまねく場合がありますので、
これらの栄養管理には医療の介入が必要でしょう。
(4)閑話休題
「過ぎたるは及ばざるがごとし」というコトワザがあります。
医療従事者であれば、
自分が行う医療行為について、
「足りない」か、
「ちょうどよい」か、
「やりすぎ」か、
迷ったことがあると思います。
その試行錯誤こそがその時点での最高の医療行為につながると私は思います。