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【4】-2 摂食障害治療における薬のエビデンスについて 

(1)薬の「エビデンス」とは

摂食障害関連の書籍には、過食や過食嘔吐の症状を減らす可能性のある薬として、「エビデンス」のあるものが紹介されています。

私は医学生時代に、「EBM(イービーエム)」という言葉を習いました。
「Evidence(エビデンス) based medicine」「科学的論拠に基づいた医療」、という言葉です。

この「エビデンス」に基づいて、抗うつ剤の一種であるSSRIや抗てんかん剤の一種が過食や過食嘔吐を減らす可能性のある薬として、摂食障害関連の書籍にも載っています。
実際に処方を受けている摂食障害の方もいるでしょう。
EBMにのっとった薬物治療とは、その薬物には効果があるという科学的証拠があるということです。

エビデンス、科学的論拠とは何でしょうか。
まず、的確にデザインされた臨床研究でもって薬の効果を比較します。

摂食障害の場合であれば、摂食障害を患っている方々を集めて、効果の期待される薬を飲む群と、プラセボという偽薬を飲む群とに分けます。
ある一定期間、薬を使用して過食や過食嘔吐の症状がどうなったかを、効果を期待される薬を飲んだ群と、偽薬を飲んだ群とで比較する、ということです。
摂食障害に関する薬の研究論文では、薬を使用している期間が3カ月前後のものが多く、短い期間で効果判定が行われているようです。

(2)摂食障害治療とエビデンスの有効性

私は12年間過食嘔吐をしてきました。
摂食障害を患っている人の中で、症状が3カ月未満の人はむしろ少数派でしょう。
年余にわたる症状には依存症特有の経年増加による増悪はあるでしょうが、短期間の症状の変動はあってしかるべきと考えます。

症状が年余に渡ることもある、いわば慢性の病である摂食障害に対して、数か月程度の薬物治療の研究論文はどれほどの科学的論拠となるのでしょう。
摂食障害に使用しうる薬に関して、長期投与の有効性と弊害について検討した良質な研究が待たれます。

つまり、摂食障害の過食や過食嘔吐の症状に効果のある薬とは、あくまでも、その可能性がある薬ということで、有効性は定かではありません。
摂食障害関連の書籍をある程度読めば、摂食障害を治す薬が存在しないことはすぐに分かることです。
それと同様に、摂食障害の症状である過食や過食嘔吐、チューイングなどの症状を減らす、無くすことができる薬も、どうやら無いのではないか、と私は思います。