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【3】-4 摂食障害と子育て

(1)子育てとうつ病の併発について

摂食障害を患っている場合、
妊娠・出産のときと同様、子育てにも大きな困難を伴います。

摂食障害女性では、
子育て期間中に症状が増悪することが多く、
育児への不安も強いようです。

一般に、摂食障害には
うつ病や不安障害などの精神疾患が併存しやすいことが知られています。

重大な出来事があると、
それが心から喜ばしいものであったとしても、
その出来事がきっかけとなってうつ病になることがあります。

昇進うつという用語があるぐらいです。

妊娠や出産、子育ては、
女性にとっての大きなライフイベントです。

摂食障害にうつや不安障害が併発しやすいことや、
妊娠・出産・子育てが人生の一大事であることを考えれば、

摂食障害の女性が妊娠うつや産後うつを発症しやすく、
育児に伴う不安を強く感じやすいことが容易に想像できるのではないでしょうか。

子どもの精神的健康への影響

母親の精神的健康は子どもの精神的健康にも影響を及ぼします。

母親がうつ状態であったり、過食嘔吐に気を取られていたり、過度に不安な状態に陥っていたり、など、
母親の精神状態が悪いことは、

子どもの行動異常や精神疾患のリスクとなるばかりでなく、
子どもの発達にも悪影響を及ぼします。

(2)子どもへの虐待

摂食障害を抱える母親は、子どもを虐待する率が高いという報告があります。

母親にうつ病があると、
子どもへの身体的虐待や精神的虐待、ネグレクトの危険が、
2~3倍に高まるとも言われています。

摂食障害女性が育児中に虐待するリスクが高いのは、
うつ病との関連もあるのでしょう。

しかし、うつ病を併発していないとしても、
過食や過食嘔吐、チューイング症状が常習的となっている場合、

過食に夢中になっているときは自分に余裕がなく、
子どもに注意がむけられなかったり、
過食や過食嘔吐をがまんしてイライラし、

子どもを邪魔物のように感じたり、
子どもがいるから、思う存分過食したり、過食嘔吐したり、チューイングしたりできないと感じたり・・・

母親がこのような心理状態で育児をすることは、
虐待やネグレクトにつながるでしょう。

しかし、母親が摂食障害を患っている場合、
上記のように感じることになんの不思議もありません。

なぜなら、

摂食障害の方にとって、
過食や過食嘔吐、チューイングは、
それこそ生きるために必要なものだからです。

治すことをあきらめてしまっている場合はなおさらです。

(3)各方面からのサポートの必要性

これらのことから、
摂食障害の女性が妊娠・出産・子育てを行う場合、
心理的、身体的な医療サポートがいかに必要であるかが分かると思います。

さらには、
摂食障害の女性、その子ども、家族に対して、
福祉などの社会的なサポートが必要です。

「母親」は子育てに関しては、どうしても責任の集中しやすいポジションです。

摂食障害を抱えながらその責任を果たすのはとても大変なことですが、
社会的なサポートがあれば子育ての負担をある程度軽減できるでしょう。

摂食障害を抱えながらの子育てには、
母親のうつ病・不安障害の併発や、
子どもへの虐待やネグレクトのリスクがあるなど、
大きな困難を伴います。

病気の状態の母親を社会が支え守ることは、
結果的にその子どもや家族を守ることにつながります。

周囲の人々の健康な関心が、
虐待やネグレクトを予防してくれます。

サポートの現状

現状では、摂食障害を抱えている母親が、受けられる福祉、社会的なサービスは、ほとんどありません。

病気への誤解・偏見によるのかもしれませんし、それを恐れた患者さん自身が声をあげられない、という理由もあるかもしれません。

社会からのサポートがもっと当たり前に受けられるようになれば、
摂食障害に苦しむ母親自身の助けとなるでしょうし、
次世代を担う子どもをも助けることにもなるでしょう。

(4)摂食障害を抱えながら、子育てしている方へ

あなたが摂食障害という病気を抱えながらも、
あなたがあなたの子どもを本当に愛しているということを、
私は疑いません。

子どもさんのために、
摂食障害を治してください。

社会の支えも勿論大切ですが、
お母さんであるあなたが健康になることが、
あなたの子どもの健康にもつながるのです。

あなたの子どもはそれを望んでいます。

あなたが、あなた自身を大切にすることは、
あなたの子どもを大切にすることなのです。

(5)医療従事者の方へ

摂食障害を合併した状態での妊娠・出産・子育てに対して、医療の入念なフォローアップが必要であることは、異論のないことと思います。

摂食障害を治すことを渇望している、若い女性から聞いた話です。

彼女は過食嘔吐に悩み、何ヵ所かの精神科、心療内科を受診しました。

彼女は、そのうちの一つのクリニックの医師から、「あなたはまだまだ若いんだから大丈夫。子どもでも産んで育てているうちに、そのうち過食嘔吐なんて無くなっちゃうよ。」と、言われたそうです。

摂食障害を抱えた上での妊娠・出産・子育ての大変さを知っていれば、口が裂けても言えない言葉です。

残念なことですが、摂食障害を診ることのある医療従事者の側に、摂食障害に関する正しい知識の有無、治療の経験値や力量に、かなりの差があるのが現状のようです。

摂食障害女性の妊娠と医師としての責任

もし、私が彼女を診たとしたら、決して妊娠をあおるような言葉は言いません。

彼女がその言葉を鵜呑みにして、のちのち止まらない過食や過食嘔吐、チューイングに苦しんでも、責任が取れないからです。

妊娠に関することは個人の自由です。

私たちには、自分で責任を取るならば、自らの意志で行動する自由があります。

摂食障害を抱えながらの妊娠・出産・子育てには、
大きな困難が伴い、妊娠・出産・子育てに伴うストレスは、摂食障害の病状をより悪化させうるものです。

摂食障害が治るまで、少なくとも過食や過食嘔吐、チューイングなどの症状が出ている間は、避妊をするなど、妊娠を避けた方が良いと、私は考えています。

摂食障害を診ることがある医師という立場から、摂食障害女性の妊娠、出産、子育てについて、あなたは、どう考えていますか?