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【1】-3 過食や過食嘔吐と腹痛 

(1)胃への影響による症状

過食することで一度に沢山の量の食べ物がお腹につめこまれると、おなかがすごく苦しくなったり、痛くなったりします。
実際に身体的な変化がおきていて、腹痛や吐き気などのお腹の症状がでることもあるようです。

身体の準備状態を上回った量の食べ物が胃に詰め込まれると、急性胃拡張になることがあります。
急激に多量の食べ物が胃に詰め込まれて、胃がマヒしてしまい、食べ物が小腸に流れ込めなくなる状態です。
胃がマヒしてのびきってしまうと、嘔吐もなかなかできず、大量の食べ物が胃の中にとどまったままになります。

この状態が悪化すると、のびきった胃がやぶれてしまったり(胃穿孔、胃破裂)、胃の血行が悪くなって腐ってしまったり(胃壊死)することがあります。

胃穿孔、胃破裂、胃壊死はいずれも重篤な病態で、緊急的な医療の介入が必要です。
いつもと違うような激しい腹痛には要注意です。

(ネット検索 日消外会誌 31(12):2346~ 2349,1998年 症例報告 過食後の急性胃拡張により胃壊死をきたした1例 国立水戸病院外科,同 病理部 草 臼田 昌広 小泉 雅典 園府田博之・中原 千尋 植木 浜一 柴崎 信悟 を参考とした。拒食をベースに発作的な大食を行うことで死亡する可能性。胃拡張から胃壊死に陥る可能性。)

(2)ダンピング症候群

過食することで、実際に身体的な変化がおきていて、腹痛や吐き気などのお腹の症状がでます。
これについて医学的に考察します。

通常、食べ物はある程度胃にとどまり、ざっくりと消毒・消化されます。
その後すこしずつ小腸に流れ込んでいき、消化吸収されます。
この、「すこしずつ」というのが重要です。

胃癌などで胃を切除した場合、ダンピング症候群という病態を合併することがあります。
手術によって、「すこしずつ」胃から小腸へ食物が輸送される過程が障害されるために起こります。
過食に伴ってダンピング症候群と似たような病態が引き起こされると考えられます。
過食によって急激に多量の食べ物が胃につめこまれたとします。
いつもよりも多い量の食べ物が、いつもよりも早く小腸に追い出されてきます。
十分にこなれていない食べ物は小腸には刺激が強く、それを薄めるために沢山の水分が必要となります。

ダンピング症候群によるホルモン分泌の異常

また、その強い刺激によって消化・吸収にまつわるホルモン分泌の異常もきたします。
小腸内に沢山の水分をまわすために身体をめぐる血液量が減ると、脳に行く血流が減少してめまい感、眠気などの症状がでます。
消化・吸収にまつわるホルモンの過剰分泌などで腹痛や腹部の不快感、低血糖やミネラルバランスの異常をきたすこともあります。
過食のみの場合でも、過食嘔吐の場合でも、胃に大量の食べ物が入っている場合、上記のような病態が起こると予測されます。
過食後に眠気や悪寒(おかん)を訴える方がときどきいます。

背景にダンピング症候群があるのではないか、と思います。

(3)脳と消化管のカンケイ

脳と腸には強い相関関係があるようです。
消化管の働きには自律神経系(交感神経と副交感神経)が深く関わっています。
交感神経系は興奮時に、副交感神経系は安静時に活発となります。
このように精神的な変化と自律神経系の働きは深く結びついています。
心の強い動揺は、お腹に身体的な変化を及ぼします。

強いストレスを背景として胃にびらんや潰瘍ができたり、出血することがあります。
これを急性胃粘膜病変といいます。
急激にはじまる腹痛、吐き気や、吐血・下血が主な症状です。

ストレスが関与する消化器系の病気に過敏性腸症候群というものもあります。
実質上お腹に問題はありません。(器質的消化器疾患がない状態。)
しかし、腹痛や便秘・下痢などの便通異常を伴います。
それらのお腹の症状がストレスによって出現したり、悪くなったりする病態です。

摂食障害を患うような人は、ストレスを感じやすく、また貯め込みやすい精神構造をしています。
過食や過食嘔吐、チューイングなどの症状がでることで、自分を責めたり、罪悪感にかられたり、抑うつ的になってしまします。
症状にでることで患者さんにかかるストレスは相当なものです。
摂食障害は、急性胃粘膜病変や過敏性腸症候群などストレスと関係の深い消化管の病気を合併しやすいと考えられます。

(4)過食嘔吐と突然死

身体が飢餓状態にあるときに、急激に食べ物を摂取すると、死の危険性があります。
人類の長い歴史のなかで、経験上知られていることです。
健康管理の目的で絶食する場合、絶食後の食事摂取に細心の注意を払うのはそのせいでしょう。

長らく摂食の無い状態の身体に、一気に普通の食べ物を大量に取り込んでしまうとどうなるのでしょうか?
まず、急性胃拡張となる可能性があります。
そこから胃破裂や胃壊死に至れば死亡する危険があります。

また、ダンピング症候群様の病態を合併する可能性もあるでしょう。
ダンピング症候群によって身体をめぐる血液量が減少してさらなる脱水となり、ミネラルバランスも崩れます。
ただでさえ、飢餓状態にあって非常に危ういバランスで生きている身体にとって、
この脱水やミネラルバランスの異常は致命的となります。
ミネラルバランス異常の一つである低カリウム血症は、致死的な不整脈を起こします。
心臓が止まるのです。

摂食障害のなかで、過食と絶食を繰り返しているような方や、著しい低体重を伴っている方がいます。
これらの方々には上述の病態が引き起こされる可能性があります。