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【16】-2 胃酸によるダメージと腹筋吐きの危険性

(1)胸焼けから逆流性食道炎へ

胸やけや口内の違和感は、過食嘔吐症状が月に数回ぐらいの頻度のときは、症状の当日や翌日に限られていました。
過食嘔吐症状がほぼ毎日でるようになった頃には、舌やのどがいつも痛むようになり、辛いものが食べられなくなりました。
胸やけは徐々にひどいものになっていて、胸やけとともに胸に痛みを伴うこともありました。
典型的な逆流性食道炎の症状です。

過食嘔吐症状が毎日数回出るようになった頃には、胸やけに対しては市販の胃薬を常用していました。
胃薬を常用するものの、いつも胸がつっかえたような違和感やむかつきなどの不快感は消えませんでした。
舌やのどの感覚は常に麻痺したような状態で、味覚を含めてさまざまな感覚が低下していたように思います。
カレーなどの刺激物を食べると、その後の胸やけ症状が特にひどいので、ほとんど食べられなくなりました。

(2)さまざまな不快な症状

過食嘔吐によって、胃酸で食道やのど(咽喉頭)、舌や口腔内が「やけど」を起こし、ダメージを受けます。
胃酸による食道の「やけど」が逆流性食道炎です。
通常、食べ物は口側から肛門側へ動いていくものです。
口→のど→食道→胃、といった具合で、つねに一方通行なのです。

胃は胃酸を産生する臓器ですから、胃酸から自分自身を守る粘液を産生し、それをまとっています。
通常は食道より上に胃酸が逆流することがないので、食道から口側の消化管には胃酸への防御機構がありません。
過食嘔吐すると、胃酸をまとった食べ物が、通常とは逆方向に動きます。
そうすると、胃酸への防御機構の無い臓器、つまり、食道・のど(咽喉頭)・舌・口内が、胃酸によって「やけど」します。
これによって、口内の痛みや違和感、麻痺したような感覚、のどのひりつき、胸やけなどの症状がでるのです。

(3)食道、咽喉頭、舌、口腔内のがん発生のリスク

胃酸の逆流は上記の不快な症状を起こすだけではありません。
胃酸による化学的熱傷、慢性的な炎症は、食道、咽喉頭、舌、口腔内のがん発生のリスクとなります。
専門書などで、過食嘔吐に合併する胃食道逆流症から食道がん(腺がん)のおそれ、という記載をよく目にします。

しかし、食道腺がん以外にも過食嘔吐は消化器系のがんのリスクとなる、と私は考えています。
過食嘔吐による消化器系のがんとはつまり、舌がんを含む口腔内がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん(扁平上皮がん、腺がん)などです。

(4)食道裂孔ヘルニア

私は、過食嘔吐が始まってほどなく、下を向いてちょっとお腹に力を入れるだけで嘔吐できるようになりました。
過食嘔吐を続けると、人によっては実に簡単に嘔吐してしまえる身体に変化します。
毎日数回の過食嘔吐が必要になってから、身体を横にしたり、頭を下にするなどの体位によって、食べた物が自然に逆流してくるようになりました。
横になって寝ていると食べ物が逆流してきてしまうこともままありました。
腹筋だけで比較的簡単に嘔吐してしまえる状態はおそらく、食道裂孔ヘルニアが関係していると思います。

食道と胃の境目には横隔膜という筋肉組織が仕切りのように存在しています。
繰り返す催吐(さいと)行為によって、食道と胃の境目にある横隔膜組織がゆるみます。
その結果、胃の一部が食道のある胸腔側にひっぱりあげられてしまった状態が食道裂孔ヘルニアです。
胃液の逆流を防ぐのに一役買っている横隔膜の上の部分に胃の一部があるので、食道に胃液が逆流しやすくなります。
食道裂孔ヘルニアは、逆流性食道炎をさらに悪化させます。

楽に吐けることのリスクは大きい

ちょっとお腹に力をいれると吐いてしまえるということは、過食嘔吐をする側にとってはある意味便利で楽なことです。
一方で、楽に吐けることはつまり、胃液が食道に逆流しやすいということです。
口腔内、舌、のど(咽喉頭)、食道の胃酸による損傷やがんのリスクは、楽に吐いてしまえる方の方がより深刻となるでしょう。
私は過食嘔吐症状が止まって、胸やけや食後の不快感はほぼなくなりました。
横になって眠っている時に、吐物が上がってきて寝具を汚したり、トイレに駆け込むということもありません。
過食嘔吐によって起こる身体の変化は、症状を止める時期が早ければ早いほど、もとの機能を取り戻せる可能性が高いのです。
かといって、無理やり過食嘔吐を止めても、がまんした分が倍以上になって返ってきて、症状がますます増えるだけです。
摂食障害において、過食嘔吐症状をがまんすることなく速やかに止めることの重要性がここにあります。