【20】-2生理のしくみと生理のトラブルについて
(1)生理のしくみ
女性のからだは、妊娠にそなえた性周期を定期的にくり返しています。その一貫として、女性特有の臓器である子宮の内面は、血液豊富な子宮内膜という組織が分厚くなったり、それが剥がれ落ちたりをくり返しており、分厚く肥厚していた子宮内膜が剥がれ落ちて排出されるとき、性器から出血しているように見えるのが生理です。
生理の「しくみ」に大きく関わるのは、脳の奥深くにある視床下部、下垂体と、女性の生殖器官である卵巣、子宮です。視床下部、下垂体、卵巣はそれぞれ特殊な生理活性を持つ物質であるホルモンを血液中に分泌し、それらが相互に複雑に影響しあい、約1ヶ月のサイクルでそれぞれのホルモンの典型的な分泌パターンがつくり出されています。
性周期に関わるホルモンで、視床下部から分泌されるホルモンは、GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)、下垂体から分泌されるホルモンは、LH(黄体化ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)、卵巣から分泌されるホルモンが、女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)、男性ホルモンです。
(2)各種ホルモンの作用
視床下部から分泌されるホルモンであるGnRHは下垂体のFSH、LHの分泌を促し、下垂体から出るFSH、LHが卵巣からのエストロゲン、プロゲステロンなど女性ホルモンの分泌を適宜促しています。そして、卵巣から分泌されるエストロゲン、プロゲステロンは視床下部、下垂体に働いてそれらが分泌するGnRH、LH、FSHの分泌を調節します。
視床下部、下垂体、卵巣から分泌されるホルモンは、お互いが呼応し合い、約1ヶ月のサイクルでそれぞれが定期的、律動的な分泌パターンを取ります。これが潮の満ち引きのようにくり返され、女性のからだの性周期が作り出されています。
なんらかの要因でもって性周期が乱されると、生理のトラブルに発展します。
視床下部、下垂体を侵すような脳の病変や、卵巣の病変によって、性周期が乱されます。その他、GnRH、FSH、LH、エストロゲン、プロゲステロンなど女性の性周期の立役者となる各種ホルモンの分泌異常、また、それらの複雑な相互関係を崩すようなホルモンの分泌異常(高プロラクチン血症や男性ホルモンの過剰状態など)によっても性周期が乱され、排卵障害、不正出血などの生理のトラブルが生じます。
(3)やせすぎも太りすぎも生理のトラブルを起こす
やせすぎも、太りすぎも無月経などの生理のトラブルを合併しやすく、調度良い体格、適度な量の皮下脂肪は、女性が正常な性周期をくり返すために無くてはならない要素です。
一般的に、標準体重の85 %未満(BMIでいうとだいたい18.0前後)で、体重減少性の無月経を合併しやすいようです。しかし、そもそもBMI 21.0以下から体重減少に伴う無月経になるリスクが上がることが知られており、BMI
21未満の方は、ストレスなどその他の排卵障害の要素が加わることでより無排卵となりやすい、性周期が乱されやすいということが予測されます。
視床下部性の無月経、稀発月経
拒食症や摂食障害に伴い、やせすぎていたり、短期間で急激に体重が落ちると、視床下部からのGnRHの分泌の低下が起こり、その影響を受けて下垂体でのLH、FSHの分泌も低下するため、性周期にふさわしいホルモンのやりとり、リズムがなくなってしまいます。無月経や稀発月経の発症です。
著しくやせている場合、その状態がすでにからだの危機であり、出血している場合ではありません。無月経は飢餓に備えたからだの適切な反応とも言えるでしょう。
その他、食行動の異常そのものが視床下部へのダメージとなる場合、あるいはストレスや夜中の過食、嘔吐行為などによって自律神経の乱れが生じ、それが視床下部レベルに異常をきたす場合など、GnRHが低下して視床下部性無月経となる可能性もあるでしょう。
(4)過食・過食嘔吐・チューイングしていても生理のトラブルが「無い」?
女性の性周期、生理周期は約1ヶ月のサイクルとなっています。この周期が短すぎるもの(24日以内)を頻発月経、長すぎるもの(39日以上3ヶ月未満)を稀発月経といいますが、いずれも生活習慣病にかかりやすくなるなど、病気との関連性が知られており、もともとの体質以外の要因で頻発月経、稀発月経など生理周期の乱れが生じている場合には注意が必要です。
無排卵性周期症の可能性も
過食、過食嘔吐、チューイング、過食と絶食のくり返しなど、なんらかの摂食障害・過食症・拒食症の症状がある方は、生理のトラブル、なかでも排卵障害を合併しやすいでしょう。摂食障害の症状がある状態で、生理周期がふつうと違ったり、生理にまつわる問題を抱えていたり、生理に関してなんらかの違和感がある場合、それは摂食障害のせいかもしれません。自分のもともとの体質と思い込んで、放置するのは危険です。
きちんと生理が来ているように見えて、実は排卵していない状態を無排卵性周期症といいます。これは正常な生理と勘違いしやすく、きちんと見分けるには婦人科を受診したり、基礎体温を測る必要があります。しかし、過食や過食嘔吐があって、生理周期が短い、出血期間が短い傾向にある方は、無排卵性周期症であるかもしれません。過食や過食嘔吐、チューイングなど摂食障害の症状がある場合、ちょっとおかしいけどちゃんと生理が来ているし、まあいいか、ではなく、過食の影響ですでに排卵障害に陥っている、無排卵性周期症を発症しているのかもしれません。
(5)排卵障害の原因はひとつとは限らない
摂食障害・過食症・拒食症は、排卵障害を合併しやすい病態を複数合わせ持つことがあります。そもそも、過食や過食嘔吐、チューイング、過食と絶食のくり返しなど摂食障害の症状は、症状に伴う自責や罪悪感が大きなストレスとなり、それが少なからず視床下部へのダメージとなっているはずです。過食や絶食の影響で短期間で体重が急増したり激減した場合など、不正出血が起こったり、性ホルモンのバランスが崩れて排卵障害が引き起こされることもあるでしょう。過食や過食嘔吐、過食と絶食のくり返しによって、高血糖、インスリン抵抗性の上昇、高インスリン血症などの病態が引き起こされると考えられますが、これらも排卵障害の原因となるものです。