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【9】-4 妊娠初期とつわり

(1)胎盤の一生について

胎盤は、受精卵が母体の子宮に着床してから形成され始め、妊娠16~20週頃に完成します。
胎盤の形やしくみが完成するまでの間は、時期的に妊娠初期に相当します。
胎盤が完成すると、母体の栄養は胎児に行きやすくなり、胎児の成長が促進されます。
また、妊娠継続に必要なホルモンが胎盤から多量に分泌されるようになります。
胎盤が完成するまでの間は、妊娠継続に必要なホルモンは母体の卵巣から分泌されます。
胎盤は自らが完成するまでの間、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンを活発に分泌します。
必要なホルモンを母体の卵巣から分泌してもらうためです。
このhCGが母体の卵巣を刺激して、妊娠継続に必要なホルモンが分泌されます。
胎盤が完成し妊娠継続に必要なホルモンを自らが分泌できるようになる頃には、hCGは分泌されなくなります。

つわりの原因?

一説には、このhCGが「つわり」を引き起こすとも言われています。
つわりは妊娠5週ころから出現し、妊娠16週ころに自然消滅します。
ちょうど活発にhCGが分泌されて胎盤がつくられる時期が「つわり」の時期と重なるわけです。
しかし、妊娠の全経過で「つわり」が無い妊婦さんもいます。
妊娠後期まで「つわり」に悩まされる妊婦さんもいます。
結局のところ、「つわり」がなぜ引き起こされるのか、はっきりわかっていません。
胎盤の形やしくみは妊娠16~20週頃にできあがりますが、胎盤は妊娠後期まで成長し続けます。
赤ちゃんが大きくなりますから、その赤ちゃんを養うための臓器である胎盤も大きくなります。
その胎盤も、妊娠40週を過ぎたころから寿命を迎えます。
妊娠42週以後に子宮収縮促進剤などで分娩(お産)を促すのは、胎盤の寿命のためでもあります。
胎盤のかわりに、赤ちゃんはこの世界に出てきて自分の身体で生きていく必要があります。

(2)つわり、妊娠悪阻と摂食障害

「つわり」は妊娠初期の妊婦さんに多くみられます。
「つわり」の原因ははっきりしておらず、ほとんどが自然治癒します。
「つわり」の症状が悪化して、妊婦さんの全身状態が悪化する場合、妊娠悪阻という病気になります。
夫婦や家族間の問題、妊娠や分娩の不安など、心理的なストレスも病状を悪化させる要因になります。
摂食障害の方の多くが、ストレスを感じやすく、ストレスに弱い精神構造をしています。
摂食障害の妊婦さんは、妊娠悪阻となりやすいでしょう。

つわりをきっかけに摂食障害になる場合もある

妊娠による「つわり」がきっかけで、摂食障害を発症する方もいます。
「つわり」から吐きぐせのようになってしまったり、気晴らしに食べて吐くようになってしまっている場合などです。
摂食障害は病識に乏しいことでも知られます。
実際の臨床の現場では、長く続く「つわり」なのか、摂食障害なのか判別のつかない症例もあることでしょう。
摂食障害の場合、患者さん本人はなんらかの違和感を感じていたり、つわりを言い訳にするような感覚があるようですが、明確な病識を持つには至らないことが多いようです。
妊婦さん本人にもはっきり分からず、お産の後にも気晴らし食いや嘔吐がおさまらず、ようやく摂食障害を疑う、ということもありえるでしょう。
重症の妊娠悪阻や、妊娠後期まで「つわり」や嘔吐を伴う妊婦さんを診る際には、産婦人科医は摂食障害も念頭に置いて診療した方がいいでしょう。